脱力日記

脱力おばさんの思い出話やつまらない日常を綴るブログ

酒がなければ生きられなかったあの人

何に負けたのか

私が出会ったころ、その人は、押しも押されもせぬ、職場の落ちこぼれだった。
そのころ、その人は、40代前半で、もちろん、独身だった。
彼がいることで、みんなが迷惑をしていたが、なんとかやりくりをして、年上の彼のメンツをあまり潰さないように気を使っている、そういう関係だった。
あの人がいなくなったら、どんなにラクだろうということは、みんなが考えていた。
上司は、何度も個人面談をやって、彼をなんとかしようとしていたのだが、結局、成功しなかった。
今でも、たまーに思うけれど、あの人は、酒に殺されたのか、それとも、自分に負けたのか、それとも、身内のプレッシャーに殺されたのか、なんだったのかな、とか。

狂乱のアルコール全盛時代

その人は、アル中だった。
当時は、アル中予備軍がいっぱいいて、真っ赤な顔で仕事に来るようなおじさんも、何人かはいたのである。
そんな中でも、完全に一線を越えた、廃人寸前の人だった。
あのころは、どうしてあんなに、誰も彼もが、やたらに酒を飲んでいたのか、よくわからない。
酒を飲むのは、楽しいが、飲み過ぎれば、つらいに決まっている。
ともかく、その人は、酒関係では、最もヤバいと見られていた。
アル中で何度も入院をしていたが、それでも、酒をやめられなかったのである。
今でも、5時になって、正業時間が終わると、おもむろに引き出しを開けて、ウイスキーのボトルを出すあの人の姿を、思い出す。

複雑な家庭

廃人寸前だったが、人は悪くなかったのである。
むしろ、普段は大人しい、気のいい人だった。
仲間に悪態をついたことなどは、一度もない。
どうしてああなってしまったのか、まあ、普通の解釈だと、複雑な家庭で、長男としてのプレッシャーに負けたのではないか、とか。
当時その人は、ものすごく気の毒な状況で、暮らしていた。
彼と、彼のお姉さんたちは、亡くなったお父さんの遺産争いを、後妻さんとその人が産んだ子供との間で、やっていたのである。
そう、その人は、女の子が2人か3人生まれたあとに、初めてできた男の子で、長男だったから、そういうふうな期待を背負わされて育ったという、そういう人で、しかし、優しい性格の本人には、「長男としての荷が重かった」ようである。
お姉さんたちは、遺産である家屋を取られないためにと、独身の長男である彼を、後妻さん+子供たちの住んでいる家に、強引に住まわせ続けたのである。
だから…家庭内別居で、お風呂なんかは、後妻さんたちがいないときにこっそり入るのだ、と言っていたことがある。
それはまあ…40歳すぎた大の男が…そんな生活では、つらかろう。
お姉さんたちには、逆らえないようだというのが、周囲の評判だった。

やはり、もたなかったか…

何度かの入院ののち、転勤もあって、私がその人の噂を聞かなくなって、だいぶたったころ、彼が、自宅で自殺をしたと聞いた。
詳細は、よくわからない。
どうしてそんなことになってしまったんだか、経過も、わからないのだが。
あの人は、困った人だったけれど、性根の悪い人では、なかった。
気が弱かったとか、優し過ぎたとか、そういうほうが、妥当だろうと思う。
今でも、「デキる男」を演じていたあの人を、思い出す。
誰もそうは思っていなくても、後輩に迷惑をかけまくっていても、それでも、なけなしのプライドを持ち続け、なんとか生きていた、あのころの、彼。
「何に負けた」というのが、妥当なんだろうか。
本人に、聞いてみたいような気もするが、もちろん、ズバッと聞いたりしたら、プライドが傷つくから、メンツを潰さないように、慎重に言葉を選ばなくてはならない。
「んーそうだね、それはどっちかというと…」というふうに、もったいをつけながら答える姿が、思い浮かんでくるが、もう、聞くことはできない。