脱力日記

脱力おばさんの思い出話やつまらない日常を綴るブログ

彼岸のあの人

あの人は今

私が本当に若いころ、ピチピチしていたころの話だが、よく飲みに行っていた仲間の中に、「ちょっと侘しい感じ」の、一回り上の男性がいた。
一回り上の男性は、その人だけではなかったが、とにかく、その人は、若くして亡くなった人のうちの一人である。

普通にもてなかったあの人

見た目は、エルヴィス・コステロにそっくりだった。

そういえば、私は、エルヴィス・コステロなんて知らなかったけれど、エルヴィス・コステロを見たときに、「あっあの人にそっくり」と、思ったというのが、実際のところなのである。
その人は、お母さんが亡くなって、お父さんと2人で暮らしていた。
だから、外食や買い食いばかりしているので、野菜が足りないと言って、居酒屋に行くと、大盛りのサラダを注文していた。
30代を過ぎても、浮いた話はまったくなく、女っ気はゼロだった。
かといって、ゲイだったというわけでもない。
ただ、そういう感じの人。
当時は、そういう人は、けっこういたと思う。
今の時代が、超結婚難だとか、超高齢童貞時代だと言って、大袈裟に驚いている人などが、いるけれど、そういうのは、別に、今始まったことではないと思う。
本当は、そういう人は、前からいた。
単にもてないとか、単に女っ気がないのである。
本人たちは、慌てず騒がず、淡々と、「そういう人」として、それなりの楽しみを見つけながら、生きていたと思う。

紳士で安全

なにしろ、その人は、いやらしいところは全くなくて、女性に対しては、紳士だった。
絶対安全な感じ、と。
特に面白い人ではないし、カラオケなんかは、笑ってしまうほど下手くそだったけれど、別に、飲み仲間としては、問題はなかった。
特に、女性絡みのトラブルは、絶対に起こさないので、誰にとっても、安心な飲み仲間と思われていたと思う。
私はときどき、気が向くと、ほかの人には言わないようなグチをこぼしたりした。
そうすると、ふんふんと、聞いてくれて、ボソボソと、何かを言ってくれたりした。

ダメな自分

その人との付き合いがなくなって、だいぶたったころに、彼が、末期の肺癌で入院していると聞いた。
その時点で、彼は、やっと50歳くらいだったと思う。
私は、悲しかった。
どうして、ああいう、無害ないい人が、そういう目に遭うのか、と。
私は、病院に行こうかと思っていたけれど、結局、行かなかったのだ。
病みやつれて、死期の迫ったあの人に会うのが、つらかった、というのと、忙しかったという、自分への言い訳で。
私は、あのとき、なんとしてでも、一度は、お見舞いに行くべきだったな、と思うけれど、もう、後の祭りである。
こういうことひとつとっても、自分はダメな人間だな、と思う。

彼岸で会いたい

私は、いつか、あの世に行ったら、その人にも、会いたいと思う。
病院に行かなかったことを、許してくれるだろうか。
昔のように笑って、あんまり面白くない、わかりにくいジョークを、ボソボソとつぶやいてくれるだろうか。